不動産売買契約の特約条項で修補請求できないとする?

  • 不動産の売買契約の特約条項
  • 請求できる権利を整理してみる
  • 修補請求について考えてみる
  • 修補請求できないという特約条項は必要ないのか?

不動産の売買契約の特約条項

不動産の売買契約には特約条項というものがある。

本文の条文に優先して適用するものです。

その特約条項の中で買主は建物の修補請求できないものとする。っていう条文を見かける事がある。

実はこの『修補請求ができない』という特約を入れるか入れないかは意見が分かれるところであって、しかもどちらも誤りでは無いから興味深いところなんです。。

そこについて検討してみます・・・。

まず『修補請求ができないものとする』という特約条項は、そもそも修補請求ができる事を前提として、できないものとしているという事ですよね。だって修補請求ができないんだったら特約条項に入れる必要はない・・・出来ないことを出来ないといっても意味がないので。。つまりその特約条項がなければ修補請求ができてしまうという解釈だと思う。。

では実際にどうなんでしょうか?ちょっと整理してみます。。

請求できる権利を整理してみる

まず不動産というのは特定されたものなので特定物になります。この特定物の売買というのは引き渡しの時点の現状で引き渡せばいいということが民法に定められています。

(特定物の現状による引渡し)
民法第四百八十三条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。

だから原則として不動産の売買契約では引き渡し時点の現状で引き渡せばいいんです。つまり瑕疵があっても債務不履行の問題にはならない。。もちろん契約締結後に売主が負う善管注意義務を違反して発生した瑕疵だということになると話は別ですけど・・・

(特定物の引渡しの場合の注意義務)
民法第四百条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

ここでわかるのが目的物に瑕疵があったとしても、そのまま引き渡せば債務不履行にはならないという事。

ところが売買契約で買主は代金を満額払ったのにその支払い額に対して瑕疵のある・・・換言すれば不良品を購入したことになる。

買主からすると満額払ったなら瑕疵のないものを引き渡さないと平等じゃないですよね。。だからその差額を損害賠償請求でき、その瑕疵によって購入した目的が達成できないのであれば解除できるとしたのが瑕疵担保責任です。

そして原則として瑕疵があっても債務不履行の問題とならないから損害賠償等ができないはずなのに、この瑕疵担保責任の条文で損害賠償等の責任を生じさせた。つまりこれは法律で特に定めた責任・・・『法定責任説』なんていったりします。

そんな瑕疵担保責任を記載した条文がこれ。

(売主の瑕疵担保責任)
民法第五百七十条 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

それで売主の瑕疵担保責任が準用する規定が次の566条の条文。。

(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
民法第五百六十六条 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。

瑕疵担保責任って知ったときから1年以内に請求するという除斥期間は3項にあったんですね。

整理すると不動産売買契約における原始的な瑕疵(契約締結前の瑕疵)は、原則として債務不履行責任がないけども、瑕疵担保責任によってその瑕疵を理由とする損害賠償請求が認められている。。そして瑕疵担保責任によって認められている権利が『損害賠償請求』と『解除』だという事ですね。

話を戻すと・・・

修補請求について考えてみる

修補請求が必要という事は、瑕疵があるという事ですよね。。瑕疵がなかったら修補する必要なないはずなので。。

という事は原始的な瑕疵があっても債務不履行の問題が起こらない、つまり瑕疵担保責任による請求権の話になる。(ちなみに原始的な瑕疵というのは契約締結前からあったという事で、後発的な瑕疵というのもありますが、これは契約締結後に発生した瑕疵であって、この場合は善管注意義務を負っているので債務不履行の話になります。)

先ほどの条文にあった通り、瑕疵担保責任によって認められている権利は、損害賠償請求権と解除権なので修補請求権はありません。

という事は・・・

そもそも修補請求はできないので、不動産売買契約における特約条項にて修補請求はできないとすることを記載する必要はない。。

という結論です。

確かにそうなんですよね。。

修補請求できないという特約条項は必要ないのか?

でもどうでしょうか・・・?

不動産の取引は一般の人が取引をします。

不動産売買契約における請求権がないからといって皆さんが納得されるのでしょうか?

また、実際にあなたが不動産を購入してその不動産に瑕疵があった場合を想像するとどうでしょう?

直して欲しいという事を相談しませんか?

少なくとも簡単には諦めないですよね?

そうであるならば、法律上請求ができないものであってもお互いの約束として、修補請求できないと記載することに意味があると思います。

売買契約は法律行為だから法律上の効果がない事を記載しない方がいいという考えもありますが、不動産売買を仲介する立場からすると不動産売買契約の当事者が納得して円滑に売買を行い、当事者同士で紛争にならない様に話を進める必要があるため、仮に法律上の効果がなくてもこういった特約条項は記載した方がいいと思う。。

それと2020年の4月に施行される改正民法では、瑕疵担保責任が契約不適合責任になって、この契約不適合責任では修補請求を認めていますので、修補請求をできないという特約条項は法的にも有効になります。

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